教育業の方々と雑談をする際に度々、ある話題になります。

 

それは、

「医者は楽しくて簡単に稼げるとお思いのご家庭が意外と多い」という内容。

 

私は時折、医師志望生からオファーを受けます。

そして実際、私は医学部志望の中高生には入試対策を、医師志望の学生には医学を教えています。

 

今回取り上げるのは、ご家族が医療のお仕事されていないご家庭のケースです。

 

以下は、面談で親御様から実際に聞いた文言です。

 

「何か医者って楽しそうじゃない。だから子供を医者にしたい。」

「医者は楽しそうだし、ラクしてお金が稼げそうな感じがする。」

「可愛い子供を、ドラマみたいな失敗しない医者にならせたい。」

 

それを聞いた子供からも、

「ママが医者はお金たくさんもらえるって聞いたから。」

「テレビで見てお医者さんカッコイイって思ったから。」

「手術してる映像みて、自分もやってみたいと思った。」

 

 

お気持ちはとても分かります。

 

医療ドラマで展開される、難局を乗り切る数々。

特に”神の手”を持つ医者は輝いて見えるものでしょう。

主観ながら、医療ドラマ等の影響は子供にとって少なくないかもしれません。

 

私は必ず、親御様の価値観を尊重いたします。

 

そして最初に私は、こう問いかけます。

 

「医者になりたいと思われるのは素晴らしい志ですね。そういえば、どんなお医者さんになりたいのでしょうか？外科や内科などありますが。」

 

すると驚くことに、９割の親御様が口を揃えてこのように仰います。

「何科とかよく分からないですが、カッコイイお医者さんに（子供を）ならせたいです」

 

私はこう問います。

「たしかに救命は崇高なお仕事ですよね。ところで、医学部に入った後でどうやったら医師になれるかご存知ですか？」

 

質問に対して、99％の親御様はこのように仰います。

「知りません。でも医者は多いんだから難しくないですよね？」

「医学部に入ったら、医者に（そのまま）なれるんですよね？」

「医者になるのに、試験とかあるんですか？医学部入るだけじゃ？」

 

 

ご存知でない親御様に、私は丁重に現実を申し上げます。

 

「医学部に合格なさると、実は他学部と比べて、かなり難しい勉強と実習を長い時間こなさなければなりません。その後もCBTやOSCE（オスキー）といった試験を通らないといけません。５年生、６年生ではポリクリといった臨床実習で忙しくなりますし、もちろん卒業試験と難しい国家試験をパスしなければならないんです。その後も大変な研修もあります。そのためには膨大な時間と労力とお金が必要です。そしてやっと医者になっても、場合によってはプライベートや睡眠を削って必死にならなければなりません。さあ、親御様とお子様は、その覚悟はおありでしょうか？」

 

すると、ほとんどの親御様がなぜか不機嫌になられます。

子供と口を揃えて、「嫌だ、もっと簡単に医者になれないんですか？」と仰る方は珍しくありません。

 

この時点で僭越ながら、私はオファーの選択肢からそのご家庭を外します。

 

 

世間知らずながら私は医師とは、責任が重く患者様の命と向き合う覚悟の必要な仕事だと考えております。

どの仕事もそうですが、仕事をして対価を得るには相応の労力や責任を伴うものです。

 

もちろん、親御様や子供の「ラクそう」「楽しそう」といった見方は主観ですから、私は尊重いたします。

確かに、医療業務は楽だと思っておられる医師も０人ではないでしょう。

ただし、「稼げる」という楽観視だけで医師を目指される姿勢は正直、手放しで喜べません。

また経験では、医学生である私の門下生達は、『ラク』よりむしろ『ツライ』と発します。

 

ご存知の通り、医師は一般的には高収入の部類に入るでしょう。

しかし「高収入」という見方も相対的で、様々な業種の方と接すると「たった1500万～3000万」と仰る方もおられます。

 

 

同業種の方と話して特に多い話題が、医師を目指しておられるのに授業料を出来るだけ安く求める方々の存在です。

同じ家庭教師の面々に伺うと、「子供の将来の夢は医者です」というご家庭から提示される時給は、時給1000円台前半が非常に多いのが現実です。

また聞くところによると、医学部専門塾にも「授業料もっと安くなりませんか？家はお金が無くて。」と相談なさる親御様も珍しくないとのこと。

 

興味深いことに、そのような方々に「医者になるのに教育費がトータルで平均幾らかかるかご存知ですか？」と問うと、

往々にして「知らない」「考えたことない」「100万くらい？」と仰るそうです。

 

そこで塾や家庭教師が「最低1000万～１億円以上です」とお答えすると、皆さん「そんなお金ありません！」と驚かれるとのこと。

 

 

そうなのです。子供を医者にならせるのに教育費・学費がかかることさえ、ご存知でない方が少なくないのです。

 

医学部専門塾や、医学部対策に長けた家庭教師に依頼すると、月に安くても数万から数十万の教育費は家計から出ていきます。

中でも熟練のプロ家庭教師に頼むと、年に1000万円以上支払うケースは自然なことです。

 

とはいえ資金が潤沢にあれば良いという訳ではありません。

私は年収が億あるVIPのオファーでも、ある【真意】を見極めてご依頼を受けるか判断しています。

 

その真意とは、「親と子供、どちらが最も医者への願望が強いかどうか」です。

ある意味で実に見事に、親御様と子供の熱意が9:1の割合、つまり多くは親御様の願望というご家庭が少なくありません。

ですから私は、きちんと現実を子供に伝えた上で、子供本人の口から「本当に自分から医者になりたいのか」を巧みに聞き出します。

 

 

単に、親から言われたり強いられたりするから医者になりたいのか。

それとも、親の願望より自分が本当になりたいから医者になるのか。

 

その回答によって、オファーを受けるかどうかの判断材料にします。

なぜなら個人的には、親の願望だけでなれる、子供の意思なしで続けられるほど医師への道のりや医師の仕事は甘くないと考えているからです。

経験則では、親の願望のみで塾に通ったり家庭教師に依頼したりする99％が途中で子供が挫折します。

当然ながら私は医師ではありませんし、ご家族ではありませんので、全ての事情や背景を知っている訳ではありません。

 

しかしながら、現実を見て医師になるのを諦めたご家庭には、「賢明なご判断だと思います」と申し上げます。

そのご家庭は思慮深いご決断をされただけでなく、本当に医者になりたい方へのイスが一つ空いた訳ですから。

 

どの職業であれ、憧れる気持ちは自由で素晴らしいものです。

不肖私は、幼少期は電車の車掌さんにとても憧れていました。

毎回電車から降りる度、車掌さんに手を大きく振って「バイバーイ！」と叫んだものです。

所作が美しく、頼もしそうな車掌さんを見る度、カッコイイ！将来なりたい！と憧れていました。

 

話が脱線して失礼しました。

 

憧れる気持ちはぜひ大切にしてください。

素晴らしい将来は「好き」を発露に開かれるからです。

 

その代わり。その代わりです。

 

”好き”が「盲信」か「確信」か、

ぜひ冷静に見極めてくださいませ。

 

「盲信」はより主観的で根拠に基づきません。

一方、

「確信」はより客観的で根拠に基づきます。

 

好意が浮ついた考えか、地に足を付けた考えかを客観視することは時に重要です。

 

 

あ、そういえば。

「家庭教師って楽そうでいいですね」と仰る方に、度々出会います。

 

すると近しい友人達は、

『忙しくても飄々としている中西のせい』

『辛くても中西は全然顔に出さない弊害』

と指摘してくれます（アドバイスに感謝、笑）。

 

そんな時、私はこう申し上げます。

「個人的にやりがいは非常に大きいです。ただ、楽かと言えば･･･どうでしょうか（苦笑）」

ささやかながら抵抗してしまう、私の悪い癖。

 

ああ。最後に、一つだけ。

レイザーラモンRGさんのように「あるある言いたい」。

 

 

 

医者あるある～♪

医者は日常でハサミを使うときも、無意識に外科の持ち方になりがち～！♪

 

 

医療関係者の方なら、きっとお分かりのはず（笑）

 

 

 

センセートはもちろん、医学部志望の生徒も大歓迎です。

これからの医療を背負っていかれるのは、覚悟を持ったあなた方ですから。

そして、長期的な視野で「善い医師」にならせる家庭教師をぜひ、センセートで見つけていただけると幸いです。

 

 

Text by 中西悠樹（代表）